★この記事の執筆者★
- ミドリ
- 食品・農業系ライター。元自然食品店勤め10年のオーガニックコンシェルジュです。畑作業が趣味。
- 菜々ちゃん
(野菜の妖精) - ・ミドリの食の師匠(?)
・野菜にまぎれて
やってきた妖精
有機野菜とは?
有機野菜の定義
有機農業は法律によってこう定義されています。
- 化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない
- 遺伝子組換え技術を利用しない
- 農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する
有機農業は環境に配慮し、農業生態系を守るための農法です。
有機JASマークとは
「有機〇〇」「オーガニック〇〇」などと表示して販売するには、「有機JAS」に適合しているかを登録認証機関に認証されなければなりません。
「有機農産物の日本農林規格(有機JAS規格)」の基準にしたがって生産され、法律で認められた事業者だけが有機JASマークを貼ることができます。
- 有機JASにはこんな基準が
- 「有機農産物の日本農林規格(有機JAS)」には、下記のようなことが記載されています。
■化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けることを基本とする
■土壌の性質に由来する農地の生産力を発揮させる
■周辺から使用禁止資材が飛来し又は流入しないように必要な措置を講じている
■は種又は植付け前2年以上化学肥料や化学合成農薬を使用しない
など。
農薬が使える場合もある
もちろん基本的に農薬は使えません。ですがどうしても必要なときに限り、一部の農薬なら使うことができます。ただし天然由来でなおかつ国が認定したものに限られます。
では「どうしても必要なとき」とはどんな時なのでしょう。
それは作物に重大な被害が出る危険がせまっている時です。農薬なしでは病害虫や雑草にやられてしまうような場合は、使わざるをえないということで許可されています。
ちなみに有機栽培でも、完全無農薬でがんばっている農家さんもいるのよ。使っていいからって、みんなが農薬を使っているわけじゃないってこと!
有機農業はいつ始まったのか
有機野菜がもてはやされるようになったのは最近のこと。まだ新しい分野のように感じる人もいるかもしれません。日本では、2000年に有機農産物に関する法律が制定され、2001年には日本農林規格(有機JAS)が施行されました。「有機」と表示するための基準が設けられたのです。
戦前はみな有機農家だった
農薬や化学肥料が使われ始めたのは戦後から。それまではほとんど使われず、肥料は下肥(人糞尿)、植物油粕、魚肥などでした。
つまり戦前はみな有機農家だったってことね。
戦後、化学工業の時代に入り、高度経済成長を迎えました。大量生産・大量消費の社会へと突き進んでいくにつれ、農薬や化学肥料の使用も当たり前になります。
農薬や化学肥料による環境汚染
農薬や化学肥料が使用されるようになると、やがて土壌の劣化や環境汚染の問題が起こってきます。そこで農薬も化学肥料も使わなかった戦前の栽培方法が見直されるようになったのです。
それは農薬・化学肥料の農業と対比して「有機農業」と呼ばれるようになりました。自然の力を活用し、自然と調和する持続可能な農業として注目されるようになっていきます。
有機農業には先人の知恵が詰まっているのね。
「安全、健康」に価値を見出された有機農業
すぐに有機農業が広まったわけではありません。
1970年代後半に「大地を守る会」が発足し、有機農業の普及をはじめました。ですが、本格的に有機農業への参入が増えてきたのはその10年後くらい。きっかけは1986年にGATTウルグアイラウンドの交渉がスタートしたことでした。
GATTウルグアイラウンドは自由貿易の拡大を目指して新しい貿易ルールを作る交渉のこと。「海外から安い輸入農産物が大量に入ってくるかもしれない。」「国内の農業はきっと大打撃を受ける。」そんな危機感が生産者を襲います。
対応策として農薬や化学肥料のコストを下げなければと考えた生産者の中から、有機農業へ転身するものも増えてきました。
その後、外食産業が有機野菜に「健康、安心、安全」という価値を打ち出して料理を提供する策に出ました。それは消費者の関心を一気に高めることとなったのです。
色んな出来事が重なって、有機野菜が売れるようになってきたのね。
有機JASは規制を設けるためのもの
しかし、「有機野菜」と表示すると付加価値がついて高く売れることから、「自称有機野菜」がはびこるようにもなりました。そこで国は規制を設けるために「日本農林規格(有機JAS)」を制定したのです。
有機農業の目的は?
え?私たちの健康のためでしょ?
…と思われる方も多いでしょう。ですが日本農林規格(有機JAS)は、人の健康にはまったく言及していません。ではいったい何を定めているのでしょう。
自然環境を守るため
JAS規格はあくまでも環境を守るためという内容です。国際機関コーデックス食品表示部会のガイドラインは次のようになっています。
有機農業は、「生物の多様性・生物的循環」および「土壌の生物活性」など、農業生態系の健全性を促進する生産管理システムである。
JAS規格はこのガイドラインに準拠しているのです。
「持続可能な」という言葉を最近よく耳にしますね。持続可能な農業、それは何年、何十年たっても自然環境に悪影響を与えない、ずっと続けていける農業のこと。有機JASはあくまでも、有機農業をその手段のひとつとして位置付けています。
農薬や化学肥料に頼らず、多種多様な生物と共生し、自然と調和していくこと。それが有機農業の目的です。
人の健康のためじゃないってこと?
国の規格としてはね。でも生産・販売・推進している人たちの中には、みんなの健康のため、という思いの人も多いんじゃないかしら。
有機栽培のメリットとデメリット
有機栽培のメリット
有機野菜には具体的に下記のようなメリットがあります。
- 環境にやさしい
- 農薬・化学肥料の危険性が低い
- 健康にいい、味が濃い、美味しい?
環境にやさしい
有機野菜は、農薬や化学肥料を使わないため、土壌や水質の汚染や地力の低下を防ぐことができます。また、生物多様性の保護や地球温暖化の防止にも貢献します。
農薬・化学肥料の危険性が低い
農薬や化学肥料は、作物だけでなく、周囲の生き物や人間にも影響を与える可能性があります。もちろん、安全な範囲で使用する決まりになっているので大丈夫、という意見もあります。その反面、本当に使用範囲が100%守られてるの?と疑問視する声も。
有機野菜はそもそも化学肥料は使われず、許可された農薬も少ないので、不安は少なくて済むでしょう。
健康にいい、味が濃い、美味しい?
これは実は意見が分かれるところです。
「健康にいい」…まったく関係ないというデータもあれば、慣行野菜より栄養が多く含まれているというデータもあります。ただ慣行野菜は化学肥料によって、無理やり成長速度を早くしています。そうすると正常な細胞分裂が阻害され栄養価が落ちると言われています。
「味が濃い、美味しい」…これは主観的な問題なので、証明は難しいですね。有機野菜かどうかの他にも、旬の野菜か、鮮度がいいか、何の品種かでも違ってきます。
ただ私は何十件もの農家さんの有機野菜を食べ比べしてきましたが、なんと今まで一度もハズレがありません。どれも確かに味が濃くて美味しいのです。鮮度も美味しさを左右しますので、一番のおすすめは産地直送サイトですね。その中から、環境に配慮して育てられた野菜を買うようにしています。
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有機栽培のデメリット
一方で、有機野菜にもデメリットがあります。
価格が高い
有機野菜は、農薬や化学肥料を使わない分、手間暇がかかるうえに収量も少なく、生産コストが高くなります。また、有機JAS規格に基づく認定や管理にも費用がかかります。そのため、どうしても価格が高くなってしまいます。
品質が安定しない
化学肥料を使うと野菜は成長しやすく形もキレイに整います。ですが、有機野菜は自然の条件に左右されるため、大きさがまちまちになったり、傷や虫食いができたりします。ですが本来、農産物とはそういうもの。見た目だけで捨てられる方がおかしいのです。
有機栽培の未来
農林水産省は以下のような目標を掲げています。
・2050年までに、耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%拡大することを目指す。
・2040年までに、主要な品目について農業者の多くが取り組める次世代有機農業技術の確立を目指す。
・2030年までは、生産から消費まで一貫した有機農業の拡大に向けて市町村の取組みを支援する。
個人的にはこの「次世代有機農業技術」というものがとても気になるところです。具体的には下記のようなものです。
・人工知能(AI)による病害虫発生予察
・光や音による物理的手法による防除
・土壌微生物機能の解明と活用
・有機栽培に適した品種開発
有機農業はただ戦前の栽培方法に戻る、というだけではありません。昔の方法そのままならば、収穫量は少ないまま、虫食いや雑草の対策も大変なままです。
高度経済成長時代に私たちが手にした化学肥料や農薬は、多大な問題を引き起こしました。ですがこれから先の未来は、持続可能な農業を見失うことない技術革新を期待したいものです。
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参照)https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/
https://www.nies.go.jp/index.html
https://www.maff.go.jp/chushi/heya/attach/pdf/tenji4-14.pdf
「有機野菜はウソをつく」齋藤訓之著